BigFatCat and the Snow of the Century 58 p.68
勝瀬大祐訳
エドは手を伸ばして猫の体に触れました。それは冷たくなっていました。エドは息を飲(呑)みました。ふるえで背筋が凍りつきました。「猫・・・おい。見つけたぞ。またお前を見つけたぞ。今度は、遅れてないよ。だから、目を覚ましてくれ。」その猫がパイ天国にやって来た日からその猫はいつもエドの猫でした。その猫は始めからブルーベリーパイが好きでした。その猫は彼の唯一の猫でした。「こんなところで寝るんじゃない、猫。おい、私は遅れてないぞ、ちくしょう。誓うよ、今度は遅れてない。」返事はありませんでした。猫はまったく動かないままでした。でもなぜか、エドは猫に自分の声が聞こえていると分かっていました。その猫はいつも彼のところに戻ってきました。そして、また、それは戻ってくるでしょう。「なあ。お前が欲しいだけのブルーベリーパイを焼いてやるから。だから、だから、目を覚ましてくれ。お願いだ。猫。起きろ。」でも相変わらず、返事はありませんでした。まったく何の返事もありませんでした。すべての力がエドから抜け始めました。彼はそこに立ったまま動かない猫の体を見つめていました。それは雪の中に横たわっていて、とても冷たくなっているようでした。
BigFatCat and the Snow of the Century 57 p.67
勝瀬大祐訳
エドは箱にとびつき、箱の上の雪をはらいました。それは彼の古いガラスのショーケースでした。エドは手を使って箱の端を探しました。これは、彼がいつもブルーベリーパイを入れていたショーケースでした。彼はケースの上を取り除いて、中をのぞきました。雪はケースの中まで入っていて、半分ぐらい満たしていました。エドは指先の痛みを気にせずに、両手で雪を掘り出しました。彼はついにほとんどの雪を出すことができました。「だめだ・・・」エドは言いました。ケースの角の雪にうまっていたのは、毛の玉でした。「なんてことだ・・・」その毛の玉は動きませんでした。彼は手をふるわせながら、雪の上にひざまずきました。「猫・・・」エドは言いました。こらえていた涙が今出てきました。彼は弱々しい声で言いました。「猫・・・。目を覚ますんだ・・・お願い。」
BigFatCat and the Snow of the Century 56 p.66
勝瀬大祐訳
「ウィリー・・・」エドは目を半分開けると、自分が雪の中のどこかで気を失っていたことに気づきました。彼はかろうじてひざまづくことができました。彼はウィリーを探して周りを見回しましたが、彼の周りには吹雪の他には何もありませんでした。「ウィリー・・・私・・・」エドは雪の下で右手に何かをにぎっていることに気づいて、話すのをやめました。彼が手を引くと雪の下からひもが出てきました。彼は一瞬それが何か分かりませんでした。彼はただそれを見つめているだけでした。でも、ゆっくり、とてもゆっくりと、彼は前のそのひもを見たことを思い出しました。彼は雪の中からひもを引きました。エドは目を大きく開いて、必死にそのひもを引っ張りました。すると、ひとつながりのジンジャーブレッドマンの飾りが彼の前に雪の中から現れました。それは、パイ天国の表の窓の飾りでした。エドは立ち上がりました。吹雪は少しだけ弱まったようでした。エドはすぐにそのひもを引き寄せました。そのもう一方の端は数フィート先の雪に覆われた箱の下にうまっていました。
BigFatCat and the Snow of the Century 55 p.65
勝瀬大佑訳
「違うよ。私は、私は…、ウィリー…。私は猫を失った。私は彼の後を追ってきたんだけど、また遅れてしまったんだ。彼は私を助けてくれたのに。彼はいつも私のそばにいて、そして私は遅れるんだ。」
ウィリーはただそこに立ってほほえんでいました。「違うぞ、エド。私は言ったはずだ。君はいつも間に合っていたよ。君はそれをそういうふうに見なかっただけだ。」「でも、ウィリー、私は…、私…。」
月が何らかの方法で雪を通り抜けて空に現れました。それは彼らが病院に行く途中で見たのと同じ月でした。それはまだ美しいままでした。ウィリーは最後にもう一度ほほえみました。「君はいつも間に合っていたよ…。そしてまた君は間に合った。」ウィリーは言いました。「さあ、起き上がるんだ(目を覚ましてごらん)」
BigFatCat and the Snow of the Century 54 p.62-p.64
勝瀬大佑訳
「ウィリー?」
「息子よ、こんなところで眠っていたら凍え死んでしまうぞ。」ウィリーはほほえんで言いました。エドは立ち上がり、ぼんやりと思いました。ウィリー、このマフラーをしたほうがいいよ。今日は本当に寒いよ。「ウィリー」エドは言いました。「ごめんなさい。私は…。私はまた遅れたんだ。私はいつも遅れるんだ。」ウィリーはほほえみました。「ちがうよ、エド」風や雪が吹いているにもかかわらず、ウィリーの声ははっきりと、落ち着いていました。それは、まだ、あのあたたかい口調でした。「君は決して遅れてはいない。君はいつも時間どおりだったよ。君は猫が飢え死にするちょうど前に、その猫を見つけたんだ。君はあきらめる前にすばらしいことを学んだ。君は優勝するちょうど前に優勝することの本当の意味を理解したんだ。そして君は私の魂を救ってくれた。時間どうりに(時間に間に合って)。」エドは首を横に振りました。
BigFatCat and the Snow of the Century 53 p.61
勝瀬大祐訳
風だけが答えました。エドはとても寒くて、とてもつかれていて、考えることができませんでした。雪は彼のまわり全体にありました。それはすべての方向からやってきて、彼を完全に目隠ししました。彼の手は半分凍っていて、その寒さが肺の中まで入っていました。彼は方向感覚を失っていました。彼は自分の店の近くのどこかにいると分かっていましたが、すべてのものが雪の下に隠れていました。世界はただひとつの大きな白くぼやけたもののようでした。「猫・・・」エドは自分が立っているかどうか分かりませんでした。彼は前にいつか、目を閉じたことに気づきました。彼はとてもつかれていました。「猫・・・ごめん。」それからすべてが薄れていきました。すべてが雪で白くなっていきました。
BigFatCat and the Snow of the Century 53 p.60
勝瀬大祐訳
丘を半分下ったところで、彼の足は力つき、彼は前に倒れました。そして、空中に長い雪の雲をつくりながら、丘を転がっていきました。彼は転がり落ちて、平らな地面を数フィートすべって、やっと止まりました。彼は痛みでうめきましたが、起き上がりました。「猫」エドは吹雪に向かってさけびましたが、彼の声は風にかき消されてしまいました。彼はよりいっそう大きな声でさけびました。「猫、どこにいるんだ。猫。」
BigFatCat and the Snow of the Century 52 p.59
勝瀬大佑訳
雪はひざのところまできていて、数歩でさえ歩くのは困難でした。風で彼はバランスをくずし、ふぶきで彼は窒息しそうでした。でも彼は立ち止まりませんでした。彼は雪を堀りながら前へ進み、苦労して丘をくだりました。彼の体全体はとても冷たくなっていました。彼の足はだれか他人の足のようでした。下の方には、白い、白い、白い土地しか見えませんでした。雪はすべてのものを覆っていました。彼は、アウトサイドモールが丘の下にあることに気づきましたが、雪しか見えませんでした。もし猫がその下のどこかにいたとしても、彼はどうやって探せばいいのか分かりませんでした。でも彼はとにかく進み続けました。
BigFatCat and the Snow of the Century 50 p.57
勝瀬大佑訳
「違うよ。」フランクは歯のないほほえみで、また言いました。
彼はワゴンに乗って、周りを回っていました。「何だ、フランク」ビージーズは少しいらだって言いました。フランクは大きな誇りに満ちたほほえみをして、言いました。「エドは猫を見つけるよ。」彼らはみんなお互いに見つめ合いました。
フランクは確信しているかのように自分にうなずきました。そのあと、ウィリーの押し車を見てまたうなずきました。とても大きなほほえみをうかべて、彼はオールドエヴァービルの方をまっすぐ指さして、自信のある声でくり返し言いました。「エドはいつも猫を見つけるよ。」
BigFatCat and the Snow of the Century 51 p.58
勝瀬大佑訳
その車は、丘の頂上近くで道をはずれて走っていきました。それは溝に突っ込んで、一つのタイヤが雪の中に深く埋まってしまいました。エンジンはまだ動いていましたが、ヘッドライトは両方ともつぶれてしまいました。エドはリムジンの後ろのドアを開けて、雪の中へ出ました。彼は頭を打っていました。彼の右のこめかみからは少し血が出ていました。彼はジェレミーが大丈夫かどうか見るために車の中をのぞきました。ジェレミーはショックを受けたようでしたが、けがはしていませんでした。エドはほっとしてため息をつきましたが、ジェレミーが彼を止めるまで回復する前に、彼は丘をくだり始めて、まっすぐ吹雪の中に入っていきました。